無題短編小説 A-Ⅳ



 急速に意識が戻ってくる。
遠くでは騒がしい声が聞こえていた。
少し眠ってしまったようだ。
妙な夢を見たような気がするのだが強いノイズが残っていて思い出せない。

「ふぅー。」
あいつが失踪して半年が経つ。
勤めていた会社は倒産していたし、調べて見れば湧いて出てくるのは女の影。
借金こそ小額で助かったものの、裏切られ、捨てられたこちらとしては腸が煮えくり返る思いだ。
がっくり肩を落としていたおふくろは、働きだした職場の人間に恵まれ少しずつ明るくなってきたのが幸いだ。
もう、あいつが生きようが死のうが関係ないと思っているのだが、ふと気になってしまう。
「……親父、元気かな……」
今日は妙にセンチになっているようだ。

真っ青に晴れ渡った空には雲一つなく、太陽から優しい日差しが降り注いでいる。
やけに気分が晴れやかだ。
体を起こして軽く伸びをする。
「そろそろ戻るか。」
独り言をいい運動場の隅にあるお気に入りのベンチから離れた。

 運動場では甲子園行きを期待されている野球部が我が物顔で練習をし、サッカー部が恨めしそうに隅で睨んでいる。
まるで自分のストレスを発散させるためだけに大声を張り上げているようにみえるクラブ顧問。
生徒を威圧するかのように睨みながら歩く生活指導の教師。
廊下では、となりのクラスのあいつが生意気だと鼻息を荒くして制裁方法を話し合うヤンキーきどりの男子生徒。
昨日見たテレビ番組の内容を話し合って仲間であることを確認しあう女生徒達。
昼休みも学校は正常運転だ。

「キーンコーンカーンコーン」
予鈴のチャイムが響き渡る。
散り散りになっていた生徒達が教室に移動し始めた。
そのとき、むせ返る思春期特有の匂いの隙間から、微かにさわやかな香りが鼻に触れた。
頭の中が少しクリアになる。
匂いの元を探そうと立ち止まると、正面から女生徒がこちらに向かって駆けて来た。
セミロングの髪に両側に垂らしたおさげが少し子供っぽっさを醸し出している。
少し小走りに駆けてくる女生徒の瞳は間違いなく僕を捉えていた。
微かな笑みをたたえる彼女の顔の、漆黒に輝くつぶらな瞳に何かが見えたような気がした。
「……僕は……」
自分の意志とは裏腹に何かの言葉が漏れそうになるのだが、最後まで言葉がでてこない。

「サトル!」
僕の言葉にかぶせるように竹内は叫んだ。
「探したんだよ! 昼休みは書道部の今後の活動を先生と打ち合わせする予定だったでしょ?」
駆けて来たときのような笑みは消え、少し怒った表情で僕を責めた。
「とりあえず、あんたが体調不良だって適当な理由つけて打ち合わせを放課後に伸ばしておいたけど、インテリ加藤の奴は顔引きつらせてたわよ。」
無表情でただ見つめている僕を不信に思ったのか、竹内がほっぺを膨らまし始めた。
「ちょっとサトル、何黙ってんのよ。なんか文句あるの?」
つっかかってきたが少し間を置いて、
「……まだ、元気でない?」
申し訳なさそうに僕の顔を覗く。

一瞬、フラッシュバックのようにノイズまじりの記憶が蘇る。
色の無いシディームの街、失踪したあいつ、ネド広場で会った仮面をつけた少女、悲痛な叫び声、伸ばした手に捕まったときの温もり、その時の笑顔。
辛うじてその記憶が留まっている間に僕は確信した。
(君だったのか……)
そして、全ての記憶は光の彼方に消えていった。

「ありがとう。」
不意に言葉が飛び出した。
何故かはわからないが、間違いなく僕は彼女に感謝していた。
今まで感じたことの無い温かい気持ちが僕の心を満たしていく。

 竹内は何のことかと一瞬ためらった表情をしたが、うまく打ち合わせを伸ばせたことに対しての言葉と捉えたようで、
「任せなさい!困ったときはこの竹内まで!」
どこかの安っぽいキャッチフレーズのように口ずさみ、満面の笑みで小さな胸をポンッと叩く。
爛々と輝く瞳は真っ直ぐに僕を見据え、その頬は淡い桃色に染まってた。

「僕は、君を見つけた」

A04_01.jpg

-Fin-

全4回を通して読んでいただいた方、まことにありがとうございました。

次回、説明を加えたあとがきを書きたいと思います。
かなりの急展開でしたが、それもふまえてこちらもお読み頂ければと思います。


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2013-02-12 : 無題短編小説 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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泉 坂

Author:泉 坂
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