無題短編小説 A-Ⅱ



 うつろな目でただ立っている者。
下を向いて自分の影を追うように歩いている者。
ひたすら不平不満をつぶやき座り込んでいる者。
ネデ広場の先客たちはいつもの如く正常運転だ。
そんな皮肉を言っている私も、他の奴から見ると同じに見えるのだろうか?
苦笑いしながら奥の青空市場に向かう。

 市場には異様な熱気が立っていた。
小さな不満と欲望がぶつかり合えば、くだらない事でも大きな渦となるいい例かもしれない。
不満をぶつけるか欲望を満たす以外興味の無い奴らだから、あいつのことを聞き回っても誰も知らないだろう。
とりあえず見て回るしかなさそうだ。

 半分腐ったような果物を無理矢理売りつけようとする店主。
壊れたガラクタやただの石ころを、さももっともらしい言葉を並べて説明する呼び込み。
商品に難癖をつけて安く買いたたこうと威嚇する客。
隙を見て盗もうとする狡猾な老人。
外野では、肩がぶつかっただけでののしり合う男達。
顔の原形をとどめないほど化粧をした女達が煽っている。
周りと容姿が違ったり身体機能が満足でない者を見ては中傷する中年。
自分よりも小さい者や舌足らずな者を見つけては見下し笑い者にする若者。
あいかわらずここも正常運転だ。
反吐が出そうなやり取りを尻目に、あいつがいないか隈無く探す。

「ウォーーーン!ウォーーーン!」
突然後方でサイレンが響き渡る。
大方先ほどの喧嘩がエスカレートしたので広場を巡回していた警備員が止めに入ったのだろう。
何事かと周囲の連中が騒ぎだし見物に移動し始めた。
そのとき、ずっしりと重たい石のように周囲に沈殿していた悪臭の隙間から、微かにさわやかな香りが鼻に触れた。
かすかに目の前がクリアになる気がした。
匂いのもとを探したいという突然沸き起こった欲求に驚きながら注意深く香りが流れて来た方に目を向けると、仮面を被った一人の少女がこちらを向いて立っていた。
セミロングの髪に両側に垂らしたおさげが少し子供っぽっさを醸し出している。
半分に割れた仮面から覗く瞳は間違いなく私を捉えていた。
微かに微笑んだように見える漆黒に輝くつぶらな瞳に何かが見えたような気がした。
「……私は……」
自分の意志とは裏腹に何かの言葉が漏れそうになるのだが、最後まで言葉がでてこない。
糞詰まりのような嫌な気分になりながら私は彼女に見入っていた。
一粒の涙を流した泣き顔ピエロの割れた仮面はただ不気味だったが、その奥に光る彼女の瞳に見つめられると不思議と嫌な気分にはならなかった。
A02.jpg

 見られてはまずいものでもあったのか、白く輝く太陽は厚い雲に隠れだした。
私が一歩踏み出すと同時に、彼女も一歩踏み出した。

続く

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2013-02-06 : 無題短編小説 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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非公開コメント

No title
前回コメントし損ねた!w
主人公の子は世界がよく見えているのですね・・・
一歩引いたこの目線大好きです♪
仮面の女の子はいったい何者なのか・・・
余談ですけどこういう変わった子が好きですw
街中で仮面付けてる子がいたら好きになりますね(え
2013-02-09 11:45 : ラル URL : 編集
ラルさん
コメントありがとうございます^^

前回分も読んでいただいたのですね。感謝感激です。

初めて書くものを見ていただいているので、こっぱずかしいやら何とやら……

たしかに仮面を付けた少女、なんて歩いてたらそれだけで興味が湧いちゃいますね!それだけで100点あげちゃうかも。
2013-02-10 00:14 : 泉坂 URL : 編集
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