Made Again 15 (アメリカ合衆国モンタナ州フロルティン市)

スピーカーから流れる美しいスキャットがノイズで遮られた。

「本日のトップニュースです。アメリカ合衆国モンタナ州中部のフロルティン市で今日深夜未明、ナイトクラブ、ボンバーズでMDMA等のドラッグ密売が行われているとの情報からDEA(麻薬取締局)が踏み込みました。
クラブ内では情報通りドラッグの密売が行われていましたが、地下では幼い子供や女性たちが監禁されており、不特定多数に金銭を要求して性行為を強制する売春や、多額の金額で奴隷として取引する人身売買が行われていました。
事件当時は15名の子供達が監禁されており、そのほとんどが貧民層から連れてこられた模様で被害届けを出されていたケースは皆無だったようです。
他にも、20名の成人女性が借金の返済が滞った弱みに付け込み、強制婦女暴行(レイプ犯罪)をへて売春行為を強要していたと見られています。

保護された被害者が多数に及ぶため受け入れ施設の確保が困難と予想されましたが、宗教団体「神の光と心の扉」が運営する複数の病院施設がすべての被害者を即座に受け入れると表明、現在被害者全員が無事、施設で治療を受けています。

今回の事件で逮捕された被疑者数名が極左テロ組織「紅の旅団」に所属しており、このような現場で得た収益が組織の資金源となっているとの見解で、FBIが捜査に乗り出しているようです。

極左テロ組織「紅の旅団」は、今までの雇用法改正により若年層に高い失業率が起こったことや宗教対立において一部の宗教に対し過度な抑圧を加える政府への不満などを背景に大きく拡大してきました。
今年2月には、雇用法改正に尽力を注いだ元商務省副長官マレイ・モード氏を誘拐、当時の内閣に30歳未満に対して雇用の優遇と一時金を要求、特定宗教に対しての謝罪と1000万ドルの賠償を求めていましたが、内閣は要求を拒否したためマレイ・モード氏は殺害され、誘拐から2週間後にロスアンゼルス市内の公園のベンチで死体となって発見されました。

フロルティン市は、宗教団体「神の光と心の扉」が第二次大戦後に設立した小さなコミューンでしたが今から20年前、当時の州知事でフロルティン市出身であるバン・ギルモア氏の肝入りで「精神と環境の融合」をテーマに環境モデル都市としてのSプロジェクトを開始。
中心部は独自の排気ガス規制を設けてほとんどの自動車の乗り入れを禁止。
代わりに物流用地下鉄の導入、地上ではLRT(ライトレールトランジット)と自転車専用道路網を拡大させて環境問題に取り組んできました。
郊外では複数の大手企業の工場誘致に成功して工業都市としての一面も見られ、そのかいあってか人口は膨れ上がり現在では100万人の市民が生活しています。
近年では地方の貧困層が仕事を求めて多数流入しており、それを隠れ蓑にMDMAなどのドラッグ売買が盛んに行われているとみられています。
そんな中、就労できない貧困層の窃盗、万引きが相次ぎ、地域住民とトラブルになるケースが報告されています。

今年でSプロジェクト開始から20年目を向かえるフロルティン市では記念として市内各地でさまざまなイベントが予定されていただけに、今回のレイプ、売春、人身売買の事件は市民に大きな影を落としました。

今回の捜査により、「紅の旅団」に対し市民から厳しい非難の声が上がっています。

次のニュースです・・・」

いつもどおり3Fのデイルームに夕方のニュースが流れていたが、突然館内放送に切り替わった。
「Dr,クレア、Dr,クレア、第23号室の患者が興奮して不安定になっています。自傷行為の兆候がみられますので至急処置をお願いいたします。」
デイルームで紙コップに入った安いコーヒーをすすっていたクレアは舌打ちをした。

「もう!せっかく一息ついて久しぶりに取れる週末の予定を組み立てようとしていたのに!」

クレアは持っていた女性誌「今の彼で大丈夫?週末は街角のカフェで新しい恋を見つけるの」特集のページを恨みを込めて叩きつけるように閉じ、コーヒーを飲み干してゴミ箱に放り込んだ。
見る人が一目で不機嫌だとわかるように、眉間にしわを寄せて腕組みをし、大股開きでかかとを大きくならしながらナースステーションの横を通り抜け23号室に向かった。
ナースステーションでは誰かがカウンターに置いたスマートフォンからラジオが流れていた。 
(また誰かがスマホを持ち込んでるわ。精神科だから電子機器の影響がある患者はいないけど私的なものを持ち込むなってあれだけ言ったのに。あとで看護師を集めて誰のものか追求しなきゃ。)
クレアはぶつぶつ文句を言いながら廊下の角を曲がった。

23号室では朝からトップニュースを飾っているナイトクラブ人身売買事件の被害者である女が入院していた。
公式では打撲、擦り傷等が中心で大きな外傷がないこと、度重なる暴行と性行為の強要によりPTSDが発症していること、唐突に暴れ出し自傷行為を行うこと、ということでこちらの精神科での受け入れとなっていた。

クレアが到着した時、女は屈強な男性看護師二人に取り押さえられて拘束衣を着させられているところだった。
「ドクタークレア、早く鎮静剤を打ってください。この女、とんでもない力で暴れるんです!」
看護師たちは顔を真っ赤にさせて叫んだ。
彼らの顔や腕には赤いミミズ腫れができており、患者が派手に暴れた様子をうかがい知ることができた。
傍で見守っていた年老いた看護婦長が準備していた鎮静剤の注射器が置いてあるラックを指差した。
「Dr,クレア、準備はできています。」
「あら、看護婦長、準備がいいこと。」
クレアは自分の母親と同じぐらいの看護婦長に対して強い非難の眼差しで睨んだ。
それに対して看護婦長は何の感情も浮かばない瞳でクレアを見つめていた。

しばらく睨みつけていたクレアは諦めて目線を外し、一つため息をついてから鎮静剤を注射器に充填し、今にも男性看護師を吹き飛ばさんとする勢いでもがいている女性に注射を打った。
程なく女性の体から力が抜けていき、看護師たちは急いで女性をベットに寝かせて分厚い5本の革ベルトで体を固定させた。
「はい、二人ともご苦労さま。しばらく私は見ておくから他の業務に戻っていいわよ。」
二人は肩で息をしながら、クレアに会釈をして部屋を出て行った。
看護婦長はすでにいなくなっていた。 

女性は意識が朦朧としているのか、ゆっくり頭が左右に動いていた。
クレアはその様子をしばらく眺めていたが、女性の耳元にそっと顔を近づけて言った。
「裏切り者は逃げることも、死ぬことも、狂うことも許されないわ。」
そう呟いて女性を睨みつけ、部屋出て行った。

ガシャンっと鍵がかかった大きな音が聞こえた。

15.jpg

私は覚えているわ。

あなたたちがやっていることを。

私は覚えているわ。

あなたたちがやってきたことを。

私は覚えているわ。

あなたたちが私にしたことを。


続く
2016-08-01 : Made Again : コメント : 2 : トラックバック : 0
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No title
あれ?
世界線が変わった……?
前回スティーブが受信したことをみんながバスの中で
聴いている?
それとも、この拘束されている女性は実はマリーで
今までのことは全部マリーの見ている夢だった……?
とかいろいろ考えてしまいました。
以前四話でベッドに拘束されて足の間から血を流している絵と
お話を思い出しました。
続きが気になります……
2016-08-02 14:30 : canaria URL : 編集
canaria さん
コメントありがとうございます^^

そうですね、今まで不明瞭な世界での「彼女」に起こる出来事から、8話で分解され再構築されても名前すら明確にでてこない仮の名前のマリーとスティーブという二人の不思議な世界のお話だったのが、具体的な地名と内容で現実世界をイメージしてもらえる内容になりました。


>>この拘束されている女性は実はマリーで、今までのことは全部マリーの見ている夢だった……?
おっしゃるように指摘がするどい!

そのあたりがどんな風に書いていくかすごく難しいなあって思っているんですが、彼女に絡んでくるスティーブがより人間味に溢れているし、塔でのシステムが非常に現実的な内容なんですね。

現実世界でマリーの身の周りにだけ起こる内容なのか、そうでないのか?もうすこしお付き合いくださいm(_ _)m

次回から受け入れ塔での世界と、今回の現実世界を「ラジオ」と「スキャット」をヒントに絡んでいきます。

ぶっちゃけ、初めてこのブログで発表した小説の現実世界ともう一つの世界という設定がベースに書いているので(うわーもう3年前だ!)お暇なら是非どうぞ。っていうかこのMade Againの初回も3年前でした・・・。
2016-08-04 00:04 : 泉 坂 URL : 編集
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