Made Again 14 (虚空)

「ほんっと最低!冊子には「シャワー完備、いつでも熱々のお湯をご利用いただけます」って書いてたからあの宿に決めたのに、「現在給湯器停止中、エネルギー消費抑制にご協力ください」ですって?水しかでないじゃないの。それはシャワーじゃなくて行水よ、行水。シャワー完備じゃなくて、いつでも行水を行えますって書きなさいよ!それにフロントの女、給湯器を動かしてって言っても無理の一点ばり、融通が利かないにもほどがあるわ。しかもなに!あの「世界にやさいしい、エコな未来を」って張り紙。一部の人間に有利な、コストダウンして恒久的に利益を搾取する未来って書き直しなさいよ!」

昨晩宿泊した宿をチェックインした後から続く、悠久の螺旋の如く繰り返されるマリーの小言があたりに響きわたる。

その怒りのオーラは辺りを燃え尽くすかの如く広がり、マリーたちがバスを待っている第37市に向かうためのバスターミナル、No,395には誰も近寄らないという異常事態に陥っていた。

「まったくだね。枕が柔らかすぎなんだよ。ちょっと寝違えちゃって首が痛んだ。」

同じく繰り返されるスティーブの小言が昨晩の宿の酷さを補足する。

「スティーブって、首、あるの?」

「…あるよ。」

このやり取りが二人の小言の終着点であり、さらに繰り返すための巻き戻しボタンでもあった。

「…しっかしまったくもう!なんであの宿は…。」

再び始まりだしたマリーの小言をさえぎるようにNo,395に一台の側面に黄色のラインを描いた汚いバンが停車した。
たっぷりとひげをたくわえた恰幅の良い中年の男が運転席から降りてきて小走りにバスターミナル側のトイレに駆け込んだ。

マリーはじっとその車を凝視しながら言った。
「嘘だと思いたいわ、この(オンボロ)バンが乗客を乗せるバスだなんて。時速100kmぐらいでバラバラに分解しそうなぐらいオンボロで錆びだらけよ。雨が降ったら間違いなく雨漏りするわ。まあ、きっと思い過しよね。」

しかし、トラックの屋根には「The 109 Tower ← →The 37 City」という表示版が設置してあった。

「見た?」

「見たよ。」

「どうする?」

「どうするって、乗るしかないんじゃない?他の移動手段はこの塔でバザーを開いている人のトラックに乗せてもらうことだからね。荷物付きのトラックか、乗客だけのオンボロバンか、の違いだけだからね。」

「あら?すごく冷静じゃない。このオンボロ具合ならシートのクッションもきっと役立たずよ。」

「まあね。どうせ僕はマリーの膝の上に座るからなんでもいっしょ…」

「お断りします。」

二人のやりとりを尻目にトイレから戻ってきた運転手がタバコをくわえながら二人に言った。
「第37市行きはあんたら二人だけかい?このトールは乗客が集まらなけりゃ発車しないよ。」
男はそういって車両止めにもたれかかって持っていた新聞紙を広げた。

トールと呼ばれたこのバンは塔と街の間を移動するいわゆる乗り合いバスのようなもので、出発するための乗客人数は車両の大きさによるがこのトラックが出発するためには6名以上が必要だった。

二人は仕方なく一旦市場までもどり、簡単な食事をとって1時間ほど時間を潰してからバスターミナル戻った。

すでにトールでは5名の乗客が乗り込でいた。運転手に促されて二人は乗り込んだ。
トールは2度エンストして乗客から罵声が飛んだが運転手は無視をして発車した。

あたりはひたすら荒野が広がり所々むき出しの大きな岩が点々を存在していた。
その中を突っ切り、第37市まで路面の良くない道路を走行して2時間ほどで到着する。
バンの後部にはシートすらなく、鉄板に直接座る込んでいた乗客たちは後でお尻が痛くなると皆が想像していた。
クッションになりそうなものを買ってこなかったことをマリーは後悔した。

しばらくするとエンジンの唸り声と風の切る音以外に、ジジジ…という音が聞こえてきた。
スティーブのスピーカーから音がしているようだ。
「あれ?何かを受信しているぞ?」

「どうしたの?スティーブ?」
マリーが言った。

「僕が何かを受信しているんだよ。そう、マリーと出会ったときのようなものをね。』
スティーブが懸命にお腹のつまみを回して周波数を合わせようとした。
ノイズの混ざった音がどんどん鮮明になっていく。
ぴたりとあった周波数からは女性が歌うスキャットが聞こえてきた。

その場に居合わせた全員が戸惑った表情を見せたが、ただ押し黙り、じっと虚空を見つめていた。

続く

14.jpg
2016-07-24 : Made Again : コメント : 2 : トラックバック : 0
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No title
わ、続きだ!
第37市に向かうためバンに乗り込んだのですね。
マリーとスティーブのやりとりが回が進むにつれて
気の置けない仲間同士って感じになってきてますね^^

スティーブが何か受信したみたいですが、バンに居合わせた人々は
その意味を何か知ってたのかな?
何かの予兆?

空に浮かぶ天体も「虚空」って感じがして象徴的です。
荒野に走る鮮やかなラインの黄色が素敵な挿し絵だと思いました。

引き続き二人の行方をお待ち申し上げております〜
2016-07-25 13:52 : canaria URL : 編集
canaria さん
コメントありがとうございます^^

いつも情景描写ばかりだったので人間同士の絡み合いを入れてみたかったのですが、なかなか難しいものですね(^^;
マリーとスティーブのコンビも様になってきたようで、これからこの世界についての詳細を書いてきたいと思います。

ラジオから流れる音、見つめる虚空に何が含まれているか、近々更新したいと思います^^
2016-07-26 21:30 : 泉 坂 URL : 編集
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