Made Again 06 (Trap Door )

はじめて言葉を発したそのモノであったが、以降は「ザザザーーー」というノイズばかりが音を立てていた。
それがもどかしいのか、何度も身をよじりながら手をバタバタさせていたがそのうち諦めて辺りをきょろきょろと見回しはじめた。
そしてタイプライターを打たずに歩きはじめたのだ。しかも前に進むばかりだったのだが、右へ行ったと思えば左へ行ったり、戻ったり、這いつくばったりと今までにない行動をとりはじめた。
あきらかに意思があるようだ。
行動は激しさを増していき、壁をたたき出したり寝転んで手足をバタバタさせて大音量のノイズを発したあとに、まるで動力源を取られたオートマタのようにぱったりと動かなくなってしまった。
突然「バンっ」と地面を叩いたあと、胡座をかいたそのモノは、小さなノイズを出したまま宙を見つめて何かを考えているようだった。

外では、空に浮かんだ二つの太陽はいそいそと他の土地を照らしに行こうと地平線の向こうに沈んでいき、どんどん辺りは暗くなっていく。

驚いたそのモノは隠れるように折れた柱と壁の間にすっぽりと体を納め、膝を抱えて丸くなった。
時折、小刻みに震えてはむせび泣くように細かなノイズを発した。

夜空では若々しい月が大いばりで輝き、塔の中に入って来た光は羽毛となって、まるで慰めるかのようにそのモノの頬にそっと触れた。
しかしそのモノは、プイッと顔を背けて自分の腕に顔を埋めた。
時折、ゴオオっという遠くから聞こえる音以外は何も聞こえずとても静かだった。

どのくらい時間が経っただろうか。
月は塔の反対側に回ってしまってほとんど光が入ってこなくなっていた。
そのモノはノイズすら発しなくなっていたが、背中はゆっくりとリズム良く上下に動いていた。
あの環境型真空管も今は何も反応していない。

闇が少しずつ濃くなっていく頃、そのモノはそっと顔を上げた。
まるで呼吸をしているかのように微かにノイズが漏れる。
環境型真空管もチカチカと光りだしたようだ。

そのモノは闇が濃くて何も見えない回廊の奥をじっと見つめていた。
奥から何かが聞こえた。
微かだが確かに聞こえた。人の声だった。
そのモノは立ち上がって奥に向かってゆっくりと歩き出した。

しかし、いくら歩いてもあれ以来一度も声は聞こえず何度も立ち止まり戻ろうとしたが、まるで戻っても仕方ない、といった具合に顔を振り、再び声のした方へ歩いていった。
すでに1時間ほど歩いただろうか。
再び月の光が回廊に差し込むようになり明るくなってきた。
しばらく進むと、幾つかの光が絹の糸になって回廊の壁で戯れていた。
そのモノが近づくとさっと糸は引っ込んで、距離をおいてそのモノの回りでじゃれ合っている。
先ほど光の糸が戯れていた場所には顔の様なレリーフが施された取っ手の無い扉があり、そのモノが扉に耳を近づけると人の話し声が聞こえた。
「…恐怖…湧いて…受け入れる…」
どんな話をしているかまでは聞こえないが、この中に誰かがいるのは間違いない。

この回廊には階段がない、だから上ることも降りることもできないので誰もここにはくることができないはずだ。
悠久とも思える時間をただ歩いてきたそのモノはよく知っているはずだが、ここにいるのは今までのモノではなかった。
数時間まえに唐突にこの場に現れ、現状を理解できずにどうすることもできない哀れな意思を持つオートマタだ。

軽く扉を叩くと話し声が止んだ。
「ザザザーザザザーー」
そのモノは懸命に言葉を発しようとした。
環境型真空管はチカチカと点滅を繰り返し、とうとう鮮やかな青色に光った。
「ザザザザーーー、ザザーー、ザ、ソ、ソコに、誰かいるの?」
ノイズが止まり、鮮やかな音声が回廊に響いた。

Made_Again_Act_06.jpg

続く
2014-11-25 : Made Again : コメント : 0 : トラックバック : 0
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泉 坂

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