Made Again 05 (Another Night )

 いつの頃からか、降りることも登ることもできない塔の回廊でそのモノは歩いていた。
人型をしたそのモノは、頭と思える部分には複数の仮面を被り、光沢を放つ金属の体に腹部はタイプライターで構成されていた。
腹部のタイプライターを叩くと、それに連動して脚部が可動して前に進む仕組みのようだ。

「カタタンタンタン、ジーーー、カタタンタンタン、ジーーーー」

意思が有るようにも思えぬそのモノは、日が昇っている間はおかしな足音を立てながらただ同じ所をぐるぐると歩いていた。
しっかりと踏みしめた足跡にはあざやかに黒い文字が印字されて、そこから力強く芽吹いた植物はあっとゆうまに成長して綺麗な花を咲かせては塵芥のように消えていく。
時にはセリフ、サンセリフ、スクリプトと、その物の気分なのか、カオスのようにフォントが入り乱れる。

夜がやってくるとそっと立ち止まり、胸の吸気口から周囲の闇を吸収して体内で高密度に闇を圧縮したインクリボンを生成し、そのまま腹部のタイプライターに装填して明日の稼動エネルギーとしていた。

ある時、まだ日が高いうちにそのモノは立ち止まろうとしていた。
動きが緩慢になっていく。
あきらかにエネルギーが不足していた。

昨晩は数百年ぶりの月の脱皮だった。
脱皮した月はその若さを取り戻し、みずみずしさを取り戻した肌は太陽の光を受けてこれでもかと輝いていた。
しかも、脱皮した古い表皮は光かがやく無数の欠片と化して地表に降り注ぎ、きらめく涙になって月の光を乱反射させていた。

そのせいで夜の闇が薄くなり、稼動の為のインクリボンの濃度が薄くなっていたのだ。

 足跡の印字はどんどん薄くなっていき、弱々しい雑草が小さく生えては跡形も無く消えていく。
とうとう見ることすら叶わないぐらいに薄くなった印字からは何も生えなくなり、その物は大きな音を立て、ぶるんと一度震えて立ち止まった。
たとえ闇がやってこようとも、インクリボンを生成する為のエネルギーすら残っていなかった。
悠久ともいえる長い時間をただ同じ所をぐるぐると歩き回ったそのモノは、とうとうその役目すらわからないまま終焉を迎えようとしているのか。
どうすることもできずにじっとその場に立っていた。
しかし、装填されたインクリボンの間に、見慣れない小さな物が挟まっていた。
それはMT管の形状で表面は透明になっており、内部は地熱ヒーターに草原カソード、成層圏プレートがあり、無数の有機グリッドで構成されていた。
昨晩地表に降り注いだ欠片が変形した環境型真空管だ。

通常、月の脱皮から生まれた欠片は一定時間で液状化し、月の光で沸点に到達して一瞬で気体になり、数十年かけてまた月に戻るのだ。
欠片の状態で挟まり、液状化するまえに高濃度の闇に包まれて月の支配から解放されたのだろう。
自由となったその欠片は一晩で独自に進化し、小さな環境型真空管と姿を変えたのだ。
真空管はすでにそのモノにしっかりと付着しており、すでに内部中枢までその配線を伸ばしていた。
そして真空管がチカチカと青い光を放ったかと思うと、そのモノはガタガタと上下に動きだして今までに無い奇妙な音を発した。

「ザーーーー…ザザッ、ザーー、ア…、アレ?ココ、は、どこだ?」

made_again_05.jpg

続く
2014-11-19 : Made Again : コメント : 0 : トラックバック : 0
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泉 坂

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