Made Again 02 (Runaway)

 頬にひんやりとした心地よい冷たさを感じて急速に意識が覚醒してくる。
私は床に腹這いになって倒れているようだ。
目をつむったままだが辺りが暗くなっているのがわかった。
「痛っ…」
頭の奥がジーンと痛む。
不快な痛みにしかめっ面をしてみる。
どれほど気を失っていたのだろうか?
確か突然現れた小人達のダンスを眺めていて急に気分が悪くなって意識がなくなったのだ。
いや、そもそも小人なんているはずがない。
きっとソファでそのまま眠ってしまっておかしな夢を見たに違いない。
かなり疲れが溜まっていていつの間にかソファから滑り降りて床に寝そべってしまったのだ。
…いや、私の部屋の床はカーペットであってこんなひんやりとしたの冷たさを感じるはずがない!
はっと目を開けると一寸先すら見ることができない真っ黒な闇が息苦しいほど濃密に充満していた。

 上体を起こして辺りを探ってみたが何も手に触れるものは無い。
やはりここは私が安心できるテリトリー内では無い。
理解不能な状況が見えない恐怖を誘い、ねっとりした陰湿な闇とともに全身にまとわりつく。
「な、何よ、これ?何処なの?ここは何処なのよ…誰か居ないの…ねえ…ちょっと!誰かいないのーっ!」
私は恐怖でキチガイじみた叫び声をあげたが、その声はすぐさま排水溝に流れる水のように小さな渦を巻いて闇に吸収されていった。
背骨から発生したわずかな電気が私の小さな体を所狭しと駆け巡り、大きくぶるっと震えると後は小刻みに震えつづけた。
完全な闇と静寂が支配された世界。
しかし、その静寂は破られた。

「…シクシク…シクシク…」
微かだが何かの音が聞こえてきた。
「…シクシク…シクシク…」
泣き声だ、子供の泣き声がする。私の他に誰か居るのだ。
「誰か居るのねー!」
私は叫んだが声は口から出たとたんさっきと同じように闇に奪われた。
「…シクシク…シクシク…」
おかしい。私の叫び声は闇を通らないのに子供の泣き声はクリアに響いてくる。
「…シクシク…シクシク…」
嫌な予感が頭をよぎった。
この不可解な状況が現実なら、この泣き声の主も不可解な存在かもしれないのだ。
「…シクシク…シクシク…」
微かだった声がよりクリアに聞こえてくる。
そう、相手はこちらに近づいて来ていた。
私の存在を把握しているようだ、この何も見えない闇の中で。
「…シクシク…シクシク…」
さらにはっきりと聞こえて来た。
公園のベンチに腰掛けてアイスクリームパフェを食べている時、数メートル先でブランコに乗れずぐずる子供の声が丁度これぐらいの大きさで聞こえていたはずだ。
すぐそばまで来ている!

 私は恐怖をぐっと押さえつけてゆっくり後ずさりした。
「…シクシク…シクシク…私は家に帰りたいの…あなたは帰りたくない?」
闇に潜んだ声は麗しい少女を連想させる素敵な声を発した。
とたんに闇が動きだしザワザワと無数の虫が動いているような音が鳴り響く。
どっと溢れ出たかのような無数の何かは足下でうごめいている。
何も見えないがおぞましい嫌悪感が全身を駆け巡る。
「…シクシク…シクシク…私と帰りましょう。」
その何かの一部は私の足を這い上がって来た。
「ヒッ!嫌ッ!」
私は手足をバタバタさせて這い上がって来たものを振り払って駆け出した。
暗闇の中で何かにぶつかってしまうかもしれないし何処に向かえばいいかわからなかったがとにかく全力で走った。
無数の何かは床一面に広がっているようで床を踏む度にクッキーを踏んだような感触を感じ「クキッ、パキッ、プチッ」という音が聞こえた。
少女の声、無数の動くもの、このおかしな状況に舞い込むきっかけとなった小人、必然と今踏んでいるものの正体がどういうものか想像してしまい嘔吐しそうになったが両手で口を抑えた。
暗闇が故に上下左右の感覚が上手くつかめずに何度も転びそうになる。
この集団の中に倒れ込むことがどれだけおぞましいか考えればそんなことは是が非でも阻止せねばならなかった。
ほどなくして前方に一条の光が闇を切り裂いた。
「…!出口よ!」
そう直感した私は無我夢中でその光の中に飛び込んだ。

 私はそのまま倒れ込んだ。
その場は無数の動くものはなく、ただ触りなれた乾いた土の感触があった。
強い光で目の奥が痛く、土ぼこりで鼻の奥がくすぐったかった。
とにかくあの不可解な状況から逃げ仰せたのだ。
ほっと安堵のため息を吐いてまぶしい光を手でさえぎりそっと目をあけると、目の前に土と岩が続く荒野が広がっていた。
辺りを見回すと私の背後には先ほど飛び出した小さな洞穴が口を開けおり、正面には長い歳月で朽ち果てた遺跡のような石群がぽつぽつと点在していてその先にはひと際大きな人の形をしたような不気味な塔が立っていた。
「…ははは…あはは…あはははははは!」
漆黒の闇の中で逃げまわったあとは何も無い荒野とは。
ただ笑うことしか私はできなかった。
「なんなのよ、もう。わけわかんないよ…帰りたいよ、家に帰りたいよ…」
次から次へとおかしな状況で混乱し、殻に閉じこもるように膝を抱えて丸くなった。
「じゃあ、私と帰りましょう。」
ぞっとするほど麗しい少女の声に驚いて振り向くと、洞穴からは闇があふれんばかりに吐き出されていく。
ありったけの闇が飛び出しては白い太陽に浄化されたように消えていき、最後にわずかなカスだけが地表にとどまり小さな煙と化してゆらゆら揺れている。
「…さあ、帰りましょう。」
うっとりするほど素敵な声で小さな煙がささやくが、私は最後までその言葉を聞かずに立ち上がって荒野の先にある不気味な塔に向かって駆け出した。
made_again_02_02.jpg

続く
2013-10-13 : Made Again : コメント : 0 : トラックバック : 0
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