Made Again 16 (フロルティン市 慈母の微笑みと涙の渦病院)

 スピーカーから流れる美しいスキャットがノイズで遮られた。

「ちょっと、勝手にいじっちゃだめでしょ。」
巡回に来た若い看護婦が老人のベット脇においてあるラジオのスイッチを切ったので、ペアの主任看護婦がたしなめた。
「いいのいいの、意識のない寝たきり老人なんかにラジオ聞かせても仕方ないんだから。
どうせお迎えがそこまできてるんだし、何よりうるさいんだよね。誰がラジオつけたのかしたら?」
悪びれるそぶりも見せず、ショートカットの活発そうな若い看護婦は検温をしながら言った。
「キャシー、いい加減にしなさい。この人の唯一の楽しみなんだから。ごめんね、おじいちゃん、ちゃんとラジオをつけておきますからね。」
主任看護婦がラジオをつけ、イージーリスニングのチャンネルにあわせた。
「まあ、ケイト主任ったら。いい子ちゃんぶっちゃってさ。」
キャシーは頬を膨らませて悪態をついた。
「でもさー、私、まだこの人を担当して一週間だけど、一度もお見舞いに来た人見たことないよ。だれかお見舞いにきた人って見たことある?」
「この人に身内はいないみたいよ。十代でこの病院の清掃係りの仕事について60年。ずっとここで働いていたそうよ。」
ケイトは特に感情を込めずに言った。
「うげ!60年もこんなところで働くなんて!私なんてここに移動してきてから3ヶ月でギブアップ寸前。」
キャシーはぐったり肩を落として手持ちのボードに検温記録を記入している。
「たぶんこの病院で一番長く働いていたんでしょうけど、誰も彼のことはよく知らないの。ここで働いて、2ブロック先の自宅アパートに帰って、またここで働いて、を延々繰り返していたそうで、誰とも何の関係を持たずにいたんだって。それで半年前に仕事中に脳梗塞で倒れたんだけどなんとか一命は取り留めたわ。でもそれから意識不明のまま。親族は誰もいないから、院長が長年働いてくれた恩返しだから面倒見るっていったんだって。なのでこのお部屋でXdayが来るまで就寝中っと。」
ケイトは喋りながら淡々と機器のチェックを済ませていった。
「へ〜、まさに天涯孤独の身って奴ですが。なーにが楽しくて一人だったんでしょうね。私なんて一人じゃ耐えられないわ。この仕事の重圧に立ち向かえるほど強くないもの。ああ、ゾンビも轢き殺してしまうような馬鹿でかいGMCのピックアップトラックに乗って、颯爽と私を助けに来てくれるカウボーイはどこにいるのかしら?」
くるりと一回転、スカートをひらりとなびかせ天を仰いで見せるキャシー。
「あんたの趣味はよくわからんわ。それよりさ、西区で起こった人身売買&レイプ事件の被害者が一名、この病院に入院したらしいわよ。」
「まじで!どんな女なの?ギッタンギッタンにされてた?」
キャシーが興奮気味に聞いてきた。
「どうゆう意味?ギッタンギッタンって。まあ、いいわ、受付した同期の看護婦が警官から聞いたんだけど、なんでもその女、ビリヤード台に縛られて何時間も何人にも輪姦されたそうよ。きっとアソコはがばがばになっちゃってるよね。
身体の傷はそれほどでもないそうだけど、あまりのショックとクスリの打ち過ぎでちょっと頭がいかれちゃったみたいで、この病院のサナトリムで治療中ですって。犯人グループは知ってのとおり極左テロ組織「紅の旅団」。あんた、気をつけなさいよ。」
ケイトはキャシーをジロリと見つめて注意した。
「なんだ、ただのジャンキーじゃん。まあ、あの治安の悪い区域で夜中に遊び歩いてんだから自業自得よね。まともな女なら、ボンバーズって店だっけ?最低な名前。あんなチンピラばっかり集まるとこにいくわけないじゃない。どうせ立ちんぼのビッチだったんじゃない?」」
「ところがどっこい、入院した女は大学までのエスカレーター式学校「光の羽根と知恵の泉」の教師だったそうよ。」
「まじっすか!あの学校って政界や経済界の著名人の母校で有名なとこでしょ。めちゃエリートじゃん。しかもこの病院といっしょの「神の光と心の扉」関連施設だし。いい給料貰ってんのに何やってんだか。ハゲ親父から搾取するスリルで我慢しとけばいいものを。」
キャシーは言葉とは裏腹にちょっと羨ましいという表情を作った。
ケイトは呆れた表情でため息をつく。
「あんた、ハゲ親父とエンコーでもしてんの?」
「え!してないしてない!とりあえず髪はあったほうがいい!」
「だからどういう意味?まあ、いいわ。でね、さっきその事件のことで警官が病院のロビーに来ていたんだけど、その彼がさ、ガエル・ガルシア・ベルナルみたいなイケメンだったのよ!」
「え〜、あの俳優、ナヨナヨ男じゃん。私だったらウディ・ハレルソンみたいな渋めの中年がいいな・・・。」

隣の部屋の検温に向かった看護士たちの声が小さくなって部屋には静寂がもどり、老人に繋がれた人工呼吸器の音と、眠気しか起こさせない音楽が流れていた。
意識不明の老人は、白い4面の壁に包まれた小さな部屋の窓際にぽつんと置かれたベッドに横たわっていた。
しばらくすると突然ラジオのチャンネルが変わり、女性のスキャットが聞こえてきた。
老人は何かの夢を見ているのか、時折まぶたが激しく痙攣しているように動き、聞き取れないほど小さなうめき声を何度も揚げていた。

「何かを・・・受信・・・」

16.jpg

続く
2016-08-11 : Made Again : コメント : 2 : トラックバック : 0
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Made Again 15 (アメリカ合衆国モンタナ州フロルティン市)

スピーカーから流れる美しいスキャットがノイズで遮られた。

「本日のトップニュースです。アメリカ合衆国モンタナ州中部のフロルティン市で今日深夜未明、ナイトクラブ、ボンバーズでMDMA等のドラッグ密売が行われているとの情報からDEA(麻薬取締局)が踏み込みました。
クラブ内では情報通りドラッグの密売が行われていましたが、地下では幼い子供や女性たちが監禁されており、不特定多数に金銭を要求して性行為を強制する売春や、多額の金額で奴隷として取引する人身売買が行われていました。
事件当時は15名の子供達が監禁されており、そのほとんどが貧民層から連れてこられた模様で被害届けを出されていたケースは皆無だったようです。
他にも、20名の成人女性が借金の返済が滞った弱みに付け込み、強制婦女暴行(レイプ犯罪)をへて売春行為を強要していたと見られています。

保護された被害者が多数に及ぶため受け入れ施設の確保が困難と予想されましたが、宗教団体「神の光と心の扉」が運営する複数の病院施設がすべての被害者を即座に受け入れると表明、現在被害者全員が無事、施設で治療を受けています。

今回の事件で逮捕された被疑者数名が極左テロ組織「紅の旅団」に所属しており、このような現場で得た収益が組織の資金源となっているとの見解で、FBIが捜査に乗り出しているようです。

極左テロ組織「紅の旅団」は、今までの雇用法改正により若年層に高い失業率が起こったことや宗教対立において一部の宗教に対し過度な抑圧を加える政府への不満などを背景に大きく拡大してきました。
今年2月には、雇用法改正に尽力を注いだ元商務省副長官マレイ・モード氏を誘拐、当時の内閣に30歳未満に対して雇用の優遇と一時金を要求、特定宗教に対しての謝罪と1000万ドルの賠償を求めていましたが、内閣は要求を拒否したためマレイ・モード氏は殺害され、誘拐から2週間後にロスアンゼルス市内の公園のベンチで死体となって発見されました。

フロルティン市は、宗教団体「神の光と心の扉」が第二次大戦後に設立した小さなコミューンでしたが今から20年前、当時の州知事でフロルティン市出身であるバン・ギルモア氏の肝入りで「精神と環境の融合」をテーマに環境モデル都市としてのSプロジェクトを開始。
中心部は独自の排気ガス規制を設けてほとんどの自動車の乗り入れを禁止。
代わりに物流用地下鉄の導入、地上ではLRT(ライトレールトランジット)と自転車専用道路網を拡大させて環境問題に取り組んできました。
郊外では複数の大手企業の工場誘致に成功して工業都市としての一面も見られ、そのかいあってか人口は膨れ上がり現在では100万人の市民が生活しています。
近年では地方の貧困層が仕事を求めて多数流入しており、それを隠れ蓑にMDMAなどのドラッグ売買が盛んに行われているとみられています。
そんな中、就労できない貧困層の窃盗、万引きが相次ぎ、地域住民とトラブルになるケースが報告されています。

今年でSプロジェクト開始から20年目を向かえるフロルティン市では記念として市内各地でさまざまなイベントが予定されていただけに、今回のレイプ、売春、人身売買の事件は市民に大きな影を落としました。

今回の捜査により、「紅の旅団」に対し市民から厳しい非難の声が上がっています。

次のニュースです・・・」

いつもどおり3Fのデイルームに夕方のニュースが流れていたが、突然館内放送に切り替わった。
「Dr,クレア、Dr,クレア、第23号室の患者が興奮して不安定になっています。自傷行為の兆候がみられますので至急処置をお願いいたします。」
デイルームで紙コップに入った安いコーヒーをすすっていたクレアは舌打ちをした。

「もう!せっかく一息ついて久しぶりに取れる週末の予定を組み立てようとしていたのに!」

クレアは持っていた女性誌「今の彼で大丈夫?週末は街角のカフェで新しい恋を見つけるの」特集のページを恨みを込めて叩きつけるように閉じ、コーヒーを飲み干してゴミ箱に放り込んだ。
見る人が一目で不機嫌だとわかるように、眉間にしわを寄せて腕組みをし、大股開きでかかとを大きくならしながらナースステーションの横を通り抜け23号室に向かった。
ナースステーションでは誰かがカウンターに置いたスマートフォンからラジオが流れていた。 
(また誰かがスマホを持ち込んでるわ。精神科だから電子機器の影響がある患者はいないけど私的なものを持ち込むなってあれだけ言ったのに。あとで看護師を集めて誰のものか追求しなきゃ。)
クレアはぶつぶつ文句を言いながら廊下の角を曲がった。

23号室では朝からトップニュースを飾っているナイトクラブ人身売買事件の被害者である女が入院していた。
公式では打撲、擦り傷等が中心で大きな外傷がないこと、度重なる暴行と性行為の強要によりPTSDが発症していること、唐突に暴れ出し自傷行為を行うこと、ということでこちらの精神科での受け入れとなっていた。

クレアが到着した時、女は屈強な男性看護師二人に取り押さえられて拘束衣を着させられているところだった。
「ドクタークレア、早く鎮静剤を打ってください。この女、とんでもない力で暴れるんです!」
看護師たちは顔を真っ赤にさせて叫んだ。
彼らの顔や腕には赤いミミズ腫れができており、患者が派手に暴れた様子をうかがい知ることができた。
傍で見守っていた年老いた看護婦長が準備していた鎮静剤の注射器が置いてあるラックを指差した。
「Dr,クレア、準備はできています。」
「あら、看護婦長、準備がいいこと。」
クレアは自分の母親と同じぐらいの看護婦長に対して強い非難の眼差しで睨んだ。
それに対して看護婦長は何の感情も浮かばない瞳でクレアを見つめていた。

しばらく睨みつけていたクレアは諦めて目線を外し、一つため息をついてから鎮静剤を注射器に充填し、今にも男性看護師を吹き飛ばさんとする勢いでもがいている女性に注射を打った。
程なく女性の体から力が抜けていき、看護師たちは急いで女性をベットに寝かせて分厚い5本の革ベルトで体を固定させた。
「はい、二人ともご苦労さま。しばらく私は見ておくから他の業務に戻っていいわよ。」
二人は肩で息をしながら、クレアに会釈をして部屋を出て行った。
看護婦長はすでにいなくなっていた。 

女性は意識が朦朧としているのか、ゆっくり頭が左右に動いていた。
クレアはその様子をしばらく眺めていたが、女性の耳元にそっと顔を近づけて言った。
「裏切り者は逃げることも、死ぬことも、狂うことも許されないわ。」
そう呟いて女性を睨みつけ、部屋出て行った。

ガシャンっと鍵がかかった大きな音が聞こえた。

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私は覚えているわ。

あなたたちがやっていることを。

私は覚えているわ。

あなたたちがやってきたことを。

私は覚えているわ。

あなたたちが私にしたことを。


続く
2016-08-01 : Made Again : コメント : 2 : トラックバック : 0
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Made Again 14 (虚空)

「ほんっと最低!冊子には「シャワー完備、いつでも熱々のお湯をご利用いただけます」って書いてたからあの宿に決めたのに、「現在給湯器停止中、エネルギー消費抑制にご協力ください」ですって?水しかでないじゃないの。それはシャワーじゃなくて行水よ、行水。シャワー完備じゃなくて、いつでも行水を行えますって書きなさいよ!それにフロントの女、給湯器を動かしてって言っても無理の一点ばり、融通が利かないにもほどがあるわ。しかもなに!あの「世界にやさいしい、エコな未来を」って張り紙。一部の人間に有利な、コストダウンして恒久的に利益を搾取する未来って書き直しなさいよ!」

昨晩宿泊した宿をチェックインした後から続く、悠久の螺旋の如く繰り返されるマリーの小言があたりに響きわたる。

その怒りのオーラは辺りを燃え尽くすかの如く広がり、マリーたちがバスを待っている第37市に向かうためのバスターミナル、No,395には誰も近寄らないという異常事態に陥っていた。

「まったくだね。枕が柔らかすぎなんだよ。ちょっと寝違えちゃって首が痛んだ。」

同じく繰り返されるスティーブの小言が昨晩の宿の酷さを補足する。

「スティーブって、首、あるの?」

「…あるよ。」

このやり取りが二人の小言の終着点であり、さらに繰り返すための巻き戻しボタンでもあった。

「…しっかしまったくもう!なんであの宿は…。」

再び始まりだしたマリーの小言をさえぎるようにNo,395に一台の側面に黄色のラインを描いた汚いバンが停車した。
たっぷりとひげをたくわえた恰幅の良い中年の男が運転席から降りてきて小走りにバスターミナル側のトイレに駆け込んだ。

マリーはじっとその車を凝視しながら言った。
「嘘だと思いたいわ、この(オンボロ)バンが乗客を乗せるバスだなんて。時速100kmぐらいでバラバラに分解しそうなぐらいオンボロで錆びだらけよ。雨が降ったら間違いなく雨漏りするわ。まあ、きっと思い過しよね。」

しかし、トラックの屋根には「The 109 Tower ← →The 37 City」という表示版が設置してあった。

「見た?」

「見たよ。」

「どうする?」

「どうするって、乗るしかないんじゃない?他の移動手段はこの塔でバザーを開いている人のトラックに乗せてもらうことだからね。荷物付きのトラックか、乗客だけのオンボロバンか、の違いだけだからね。」

「あら?すごく冷静じゃない。このオンボロ具合ならシートのクッションもきっと役立たずよ。」

「まあね。どうせ僕はマリーの膝の上に座るからなんでもいっしょ…」

「お断りします。」

二人のやりとりを尻目にトイレから戻ってきた運転手がタバコをくわえながら二人に言った。
「第37市行きはあんたら二人だけかい?このトールは乗客が集まらなけりゃ発車しないよ。」
男はそういって車両止めにもたれかかって持っていた新聞紙を広げた。

トールと呼ばれたこのバンは塔と街の間を移動するいわゆる乗り合いバスのようなもので、出発するための乗客人数は車両の大きさによるがこのトラックが出発するためには6名以上が必要だった。

二人は仕方なく一旦市場までもどり、簡単な食事をとって1時間ほど時間を潰してからバスターミナル戻った。

すでにトールでは5名の乗客が乗り込でいた。運転手に促されて二人は乗り込んだ。
トールは2度エンストして乗客から罵声が飛んだが運転手は無視をして発車した。

あたりはひたすら荒野が広がり所々むき出しの大きな岩が点々を存在していた。
その中を突っ切り、第37市まで路面の良くない道路を走行して2時間ほどで到着する。
バンの後部にはシートすらなく、鉄板に直接座る込んでいた乗客たちは後でお尻が痛くなると皆が想像していた。
クッションになりそうなものを買ってこなかったことをマリーは後悔した。

しばらくするとエンジンの唸り声と風の切る音以外に、ジジジ…という音が聞こえてきた。
スティーブのスピーカーから音がしているようだ。
「あれ?何かを受信しているぞ?」

「どうしたの?スティーブ?」
マリーが言った。

「僕が何かを受信しているんだよ。そう、マリーと出会ったときのようなものをね。』
スティーブが懸命にお腹のつまみを回して周波数を合わせようとした。
ノイズの混ざった音がどんどん鮮明になっていく。
ぴたりとあった周波数からは女性が歌うスキャットが聞こえてきた。

その場に居合わせた全員が戸惑った表情を見せたが、ただ押し黙り、じっと虚空を見つめていた。

続く

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2016-07-24 : Made Again : コメント : 2 : トラックバック : 0
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Made Again 13 (安堵と不安)

 一階に降り立ってマリーたちは驚いた。
ゆうに3階ほどはある天井をドリア式にも見える巨大な柱が等間隔で支えている光景は圧巻だった。

しかし二人の驚きは違うところにあった。
人、人、人。
50000平米はあろう一階フロアには人が溢れ、巨大なバザールが開かれているかののように無数の店まで並んでいた。

「たくさんの人がいるのね!ここは転送された人を受け入れる場所なんでしょ。どうしてこんなに人がいるのかしら。」
マリーはため息まじりに言った。
「受け入れ塔はこの世界に入ってくる入り口じゃろ。人によっては自分が保護された受け入れ塔はある意味故郷みたいなもんなんじゃよ。だから定期的にその故郷に帰ってくるんじゃよ。また、他の受け入れ塔がどんなところか見てみたくて受け入れ塔行脚をするものもいる。巨大さゆえにその雄大な姿をみたいものもいる。いわば観光名所じゃな。そんな人たちをターゲットに市場が生まれるのも自然の摂理じゃわ。地域の名産品、土産物屋、生鮮食品、なんでもある。20ほどの宿泊施設もあるからな。わしらのような受け入れ用のサルベージ隊員と観光事業に従事する者とその家族の約1000人ほどがこの塔の一階部分で暮らしておるんじゃ。ある意味小さな町じゃな。」
案内の老人は笑いながら言った。
確かに観光ツアーのようによく分からない文字が書いた旗を振って十数名の人を誘導している者がいたり、仲睦まじいカップルが寄り添って扉を指差し、『あの扉から私がでてきたのよ」っといっている光景や、食料品を購入する年配者、暇つぶしにぶらつく若者やいつもの日課のように談笑する老人たちを目にした。

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「まあ、なんとも賑やかなことだね。マリーと二人ぼっちだったあの寂しい回廊はなんだったんだか。」
鼻から激しいため息を吐き出すようにスティーブが言った。
「さあ、こっちじゃよ。受付窓口に向かうぞい。」
急かす老人についていき、途中で人だかりをかき分けながら登録窓口に到着した。

窓口カウンターの上には「23番受け入れ塔サポートセンター、ただいま食事中、御用の方は休憩終了までお待ち下さい。」と達筆な文字で書かれた札が置かれていた。

「ただいまお食事中だそうですけど、どうします?」
待たされることにイライラしたのか、マリーは突き刺すような眼差しを老人たちに向けて言った。
「え、いやっ。と、トメさーん!上からの登録者じゃよ!トメさーん!飯くっとらんで手続きしておくれー!」
マリーのプレッシャーにあたふたした老人がてんやわんやになっていた。
「マリー、君の無言の圧力は抜きん出たものがあるね。それ、才能だよ。」
スティーブは感嘆して言った。
「ありがと。でもあなたには通じないわね。ところで、いつまで肩に乗っているの?」
マリーはスティーブをジロリと見つめて言ったが、スティーブは聞こえないふりをした。

「はいはいはい」
訳のわからない機械だらけの受付内の奥から紫色の髪をした老婆が出てきた。
「はい、は一回。」
スティーブは言った。
「…え?」
「…いえ。」
「…えーと。登録受付じゃったかな。」
トメさんと呼ばれた老婆が言った。
「この嬢ちゃんと、このちっこいのが登録者じゃ。仮移民登録してやっておくれ。」
案内してくれた老人が大声で叫んだ。
「仮移民登録だね。この用紙に氏名と性別、概算の年齢を書いておくれ。記憶がないから適当でいいよ。でも変更できないからよく考えて書くんだよ。こちらにお任せでもいいけど、依頼料としてこの後の配給から一部差し引くからね。」
「なんか適当だね。マリー、僕の分も書いておいて。」
「…いい度胸してるわね。あんた年齢を思い出したの?」
「18、ということにしておいて。」
スティーブは必要なことだけ答えた。

必要事項を書いて提出すると、老婆はその用紙をスキャナーにセットしPCに向かってなれた手つきでキーボードを叩き、何かを入力していく。
すると受付カウンターの一部がスライドしてその下にパネルが現れた。
「一人づつそのパネルに両手をかざしておくれ。最初はマリー、あんたから。」
マリーは言う通りに両手をパネルにかざすと、パネルから一条の光が現れ、まるでスキャンをするように少しずつマリーの手を照らしていった。
全て照らし終えると光は消えた。
「次、スティーブ。」
マリーに抱え上げられてカウンターに立ったスティーブは手をかざしたが、その小さな体ではほぼ全身を照られされているようだった。

「以上で終わりだよ。今のであんたたちの生体情報はスキャン済み、配給等で認証が必要になった時に確認がとれるようナノマシンを注入、これで仮移民登録完了さ。第109自治政府にそのデータを送信しておいたから最寄りの街…ここからだと第37市が一番近いね、その街の入り口に第37市地区出張役場があるから、そこで本登録すれば晴れてこの世界の住人。どこかで雇ってもらうもよし、やりたいことがあれば起業するのもよし、特技があればギルドに登録するもよし、もちろん、旅に出たけりゃだれも止めないよ。」
トメは窓口横に山積みされた冊子を二人に渡した。
「その冊子に書かれた順番に回って配給を受けとくれ。街へはバスかここに屋台を出してる誰かに街まで送ってもらうといい。」
そう言うとトメは食事中と書かれた札を指差してジロッとにらみ、部屋の奥に消えていった。

「…何かを埋め込まれたそうだよ。」
ぼそりとスティーブが言った。
「気味が悪いわね。なんか背中がかゆくなってきた気がする。」
青い顔をしてマリーが背中を掻く振りをしていると、一階に連れてきてもらった老人たちがいなくなっていた。
「ちょっと!どうするのよ、これから。ジジババはいなくなっちゃったし、疲れちゃってゆっくりしたいし、とにかくお腹が空いて立ちくらみがしてきたわ。」
「マリー、君は説明書を読まないタイプだね。まず冊子に目を通そう。」
「はいはい、おっしゃる通りにしますわ、パパ。さあ、目を通した結果、どこに行くのかしら?」
「最初にこの窓口の裏手に食堂があるから食事にしよう。仮移民登録者は3日間無料と書いてある。食堂の隣に配給所があるからそこで必要な衣類や移動に必要な日用品にを受け取って、初回登録者には最寄りのシティまでの移動費としていくばくかの金銭が支給されるようだね。」
「あら?なかなかの高待遇じゃないかしら?どこのだれだかわからない人に衣類や食料、お金までくれるなんてね。」
「政府からすると、労働力の確保になるのかもしれないからじゃないかな。」
「過酷な強制労働でもさせられるってわけ?」
「そうじゃないよ。何かしらの理由で人口増加の方法が移民に頼らざるをえないのかもしれないってことさ。あの老人たち、自治政府っていってたよね?なんかやだな。」
「どうして?」
「戦争でもしてるんじゃないかと思ってね。」
二人は黙ったまま喧騒の中を分け入り、食堂に向かった。

続く
2016-05-10 : Made Again : コメント : 2 : トラックバック : 0
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プロフィール

泉 坂

Author:泉 坂
イラスト描いてます。
靴も作ってます。

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